先日空港でトイレを利用したのだが
人がたくさん並んでいるにも関わらず
個室が3つしかなかった
「絶対にもらす…!」
私はそう確信した
来たるべく悲劇に向けて
色々な想像をしていると
トイレの入り口に
ある紙が貼ってあった
「君らが並んでる反対側の
通路エスカレーターを下ったところに
6つ個室があるトイレあるよ」
要約するとそんな感じ
私はダッシュでそちらへ向かった
こちらは一刻の猶予も許さないのだ
エスカレーターを急いで下った先に
楽園はあった
広々とした空間にキャリーケースを
持ったまま入れる、これまた広々とした
個室が6つ
神よ…!
時は経ち、すっきりした私はふと思った
このありがたさを私だけが享受しても
良いのだろうか…と
この広々とした空間を
私だけが知っている状況に
なんとも申し訳ない気持ちが
湧き上がってしまったのだ
今もあのトイレに並んでいる女性たちを
救わねば…!
あの時の私の心はヒーローにも負けないくらい
熱かったと思う
膀胱アベンジャーズだった(は?)
さて上の階に戻った私
いざトイレに並んでいるご婦人たちに
声をかけようとして立ち止まった
(なんて声をかけるのが正解なんや…)
もし私が空港職員さんという役職を
手に入れていれば
さわやかな笑顔を浮かべながら
「こちらにお並びのお客様、後ろの
階段をお下りになったところにも
トイレがございま~す!」
と軽やかに案内ができるが
残念ながら私は並んでいるご婦人たちと同じ
普通の空港利用客なのである
どの面さげてそんな堂々と
トイレの案内をしたら良いのか考えていると
列に新たなる犠牲者…
もとい何も知らないご婦人が2人並んでいた
(いけない!あの2人だけでも助けなきゃ…!)
自分でも何を言っているのかよくわからないが
なぜかその時ご婦人たちの膀胱を守りたいという
熱い気持ちが燃え上がり、思わず声をかけたが
ここで急に私の中の隠キャが顔を出した
以下は悲しい隠キャによる精いっぱいの会話である
私「ア、スミマセン、下のトイレのが…メッチャ空イテマシタヨ…」
ご婦人「え?」
私「アノ、ムコウノエスカレーターあるじゃナイッスカ
ソコオリタラ メッチャ 広イ トイレ アリマシタヨ」
ご婦人「そうなんですか?
ありがとうございます☺」
私「…ッス」
広い方のトイレに向かう1人のご婦人の
背中を見送った後、列に並んでいる他の
ご婦人達から「なんやコイツ」という
視線をもらいながら
1人は…救えた…
と思った私は
自分の中の突然発症した隠キャに
心抉られつつ、待っている家族の
元へ戻った
その後
「めっちゃ遅かったんだけど!」
と子供に怒られ
心の傷はさらに深くなり
「ウ…ウゥ…」
と弱った獣のような鳴き声しか出せなかった
何をどう話せば理解されるのか
トイレ案内で傷ついた母の気持ちは
もはや人語では説明できなかった
優しさが空回りし
まるで人間との触れ合いを求めて
里山に降りてきた妖怪が
うまいこと立ち回れず傷付き
再び山に帰っていった感じだった
まるで泣いた赤鬼(青鬼不在)
私の膀胱は無事だったが
心はメッコメコになった
終わり
